防衛装備庁が公募する安全保障技術研究推進制度に2024年度に北海道大学から2件の新規採択があったことが先日報道されました。この防衛装備庁の研究助成制度は世間からの注目の度合いも強く、国立大学が参画する度に報道がなされています。その一方で、国家プロジェクトとして軍事・防衛研究の一端を担っているとされているのにあまり注目されていない研究助成制度に、「経済安全保障重要技術育成プログラム(K Program)」というものがあります。
北海道大学では、防衛装備庁の研究助成制度に応募する際には「研究インテグリティ委員会」という学内委員会で審査を得ることとしていますが、この「K Program」に応募する際には2024年10月時点で全く無審査で応募できることとなっています。「K Program」は「国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)」や「国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)」等が資金を配分する担当機関となるため、一見すると確かに軍事・防衛研究とは無関係の研究制度に見えます。しかし要望書に書いた通り、「K Program」は実態としては国の軍事・防衛研究の一部として設計されています。このような事情があるため、京都大学(※1)や名古屋大学(※2)のように、審査にあたり事前の審査制度を設けている国立大学もあります。
これらの事情を受け、北海道大学教職員組合は2024年10月30日に、北海道大学の研究者がこの「K Program」に応募する際にも、防衛装備庁の研究助成制度と同様に何らかの審査制度を行うよう、大学に対して要望書を提出いたしましたので、ここに公表いたします。
※1:https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/about/publication/conference/report/department/r5/230711
※2:https://jigyoka.aip.nagoya-u.ac.jp/wp-content/uploads/2024/04/8d6a430b740d6d34e22c674dcdf1b786.docx
2024年10月30日
北海道大学
総長 寳金清博 様
北海道大学教職員組合
執行委員長 清水池義治
「経済安全保障重要技術育成プログラム(K Program)」の扱いに係る要望書
北海道大学における軍事・防衛関係の研究に関する取扱いについては、令和4年9月発出の役員会決定等により取扱うこととされておりますが、これらの通知において審査の対象となる研究は「国内外の軍事・防衛を所管する公的機関からの資金提供(再委託を含む。)を受けて研究を行う場合」とされており、対象となる研究は防衛装備庁が公募する「安全保障技術研究推進制度」等に限定されています。
一方で、例えば防衛装備庁の資料(別添1)にもあるとおり、デュアルユース技術への投資に対する研究制度として「経済安全保障重要技術育成プログラム」(以下、「K Program」という。)が「安全保障技術研究推進制度」と並び位置付けられております。また、令和5年に実施された「経済安全保障法制に関する有識者会議」の会議資料(別添2)では「K Program」はその採択後に「協議会」が伴走支援を行うことが示されており、そしてこの協議会のほぼ全てに防衛省又は防衛装備庁が参加する予定となっております。このように、「K Program」は資金提供こそJSTやNEDO等が配分機関となるものの、「国内外の軍事・防衛を所管する公的機関」が強く関係する研究制度であることが確認できます。
令和6年10月時点で、本学からの応募に当たり、「K Program」は研究インテグリティ委員会の審査の対象とはなっていないことを本組合で確認しております。しかし上述のとおり、「K Program」はその目的及び運用に軍事・防衛の要素を含むものであることから、本学における研究の健全性・公正性(研究インテグリティ)を確保するために「K Program」の応募に際し何らかの審査制度を持つ体制とすることを要望いたします。
(別添1)
令和5年11月14日「防衛装備庁技術シンポジウム2023」附議資料「防衛技術に関する戦略的取組について」
https://www.mod.go.jp/atla/research/ats2023/index.html
https://www.mod.go.jp/atla/research/ats2023/pdf_oral_matl/14_1505.pdf
※以下、要望書での指摘箇所の抜粋と、赤枠での強調。

(別添2)
令和5年11月8日「第8回 経済安全保障法制に関する有識者会議」附議資料「経済安全保障重要技術育成プログラム(K Program)の現状」
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/keizai_anzen_hosyohousei/4index.html
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/keizai_anzen_hosyohousei/r5_dai8/siryou5.pdf
※以下、要望書での指摘箇所の抜粋と、赤枠での強調。

