北海道大学文学研究院における新研究室設置の取り組みについて

機関紙「ほくだい」の2025年2月号に記事を投稿いたしましたので掲載いたします。


 北海道大学大学院文学研究院に所属する女性教員が大学の「女性教授増加のための加速アクションプラン」に基づき教授職への昇進したことに端を発して、同文学研究院の一部の男性教員からハラスメントを受けているとして、本件女性教員らが再び正常な教育・研究活動を行えるよう、新研究室の設置を求める活動を本組合では2024年6月から支援してきました。

 本件支援はこれまで関係者限りの扱いとして公表してきませんでした。しかし2025年1月に実施された大学との団体交渉において、「問題となっている行為がまだハラスメントと確定した訳ではない」などとして、被害教員及び本組合の一部要求を「飛躍している」と大学は回答しました。

 本組合は大学のかかる対応を受け、今後は本件の公表を通じて大学に新研究室設置を促す必要があると判断するに至りました。つきましては今回、原因となった行為の問題性や、被害教員が目指している新研究室の設置等について、組合の見解を公表いたします。

 北海道大学教職員組合は次の点から、2024年2月の文学研究院教授会で行われた、女性教員の教授職昇進の承認直後に行われた発言がハラスメントに該当すると考えます。

  1. アクションプラン等の大学の方針を否定するのではなく、大学の方針に基づき選出された女性教員個人を否定したこと。
  2. 女性教員の昇進の誹謗を、本人及び本人の同僚が集まっている場において行ったこと。
  3. 自身が主張する「逆差別」の正当性の根拠として、統計資料や匿名化された一般的な情報を用いるのではなく、女性教員の昇進・性別・年齢を用いたこと。

 本組合は、これらの言動をめぐり、2024年3月までの文学研究院の執行部員(2024年4月に交代する前の執行部員)による対応は適切なものであったと考えます。つまり、当時の文学研究院のワーキンググループが2月教授会発言の問題性を次の教授会で即座に指摘したことと、そのような指摘に対し「教授会の場ではいかなることでも発言できなければならない」といった趣旨の反対意見が出た際に、執行部が構成員に対し明確かつ即座に「発言に対する慎重さ」を求めたことは、ハラスメントを防止する上で適切な措置及びリーダーシップであったと考えます。

 本組合は、被害教員らが訴える新研究室設置の要望が、当該教員らが再び正常な教育・研究活動を行えるようにする措置として極めて有効な策の一つであると考えます。ハラスメント事件の対応に当たって本組合は、その発生原因を明らかにする以上に、被害者を心身ともに再び元の日常に戻すことが重要であると考えます。今回もその実現に向けた取り組みを被害教員らとともに引き続き行っていきます。

 本組合は本件ハラスメントが本学の女性教員の積極登用に関するアファーマティブアクションの実施に異議を唱える形で生じたことを、深く懸念します。日本の大学における女性教員の割合はOECD加盟諸国の中で最も低く、国際的にみて日本の大学教育・研究活動には、著しいジェンダーの偏りが生じています。その背景には、ジェンダーステレオタイプの刷り込みや、子育てや家事負担の女性への偏重など、様々な社会構造的な要因が絡み合っています。アファーマティブアクションは、こうした社会構造によって生じている著しい不平等の是正を目的としており、大学もこの考え方を支持しています。ジェンダーによる構造的不平等への言及なしにアファーマティブアクションを「男性への逆差別」と主張することは、このような目的を無視するものであると解されます。また発言の自由は当然保障されるべきですが、施策の検討段階ではなく、アファーマティブアクションの「成果(=教授昇進)」が特定の個人に発生した直後にそのような発言をすることは、その個人に対してだけではなく、アファーマティブアクションの対象となる女性教員全体に対して「不当に利益を得る集団」という印象を付し、女性教員の尊厳を傷つける結果をもたらします。同時に、女性教員の積極的登用に賛同しにくくなる組織風土が醸成され、女性教員自身も登用を躊躇しかねず、大学におけるジェンダーの構造的不平等が是正されないばかりか、維持・再生産されてしまいます。したがって、本組合はDEI推進宣言に沿って本ハラスメント事案およびその二次被害への対応を行うよう、大学に求めます。


 

【参考報道】

北海道新聞デジタル:北大女性教授がハラスメント被害 組合公表

産経ニュース:女性教授昇進に否定的発言 教職員組合が「ハラスメント」主張